朗読台本素材「夕暮れ」 cast ナオキ(男) リエ(少女) タイトルコール「夕暮れ」 ナオキ語り: ♪いちばんぼーし みーつけた…♪ (歌う)         子供の頃はよく歌いながら帰ったっけ…         僕は昔から鈍くてのんびりしていたから、よく叱られもしたし、いじめられもした。         帰り道は、笑顔よりも泣き顔の方が多かったな…。         でも…空に一番最初に輝く星を見つけるたびに、慰められていた。         悲しい今日はもう終わるよ、明日はきっといい日になる。だから大丈夫って。 ■公園の前でふと足をとめて ナオキ:    あれ?この公園……やっぱりそうだ、懐かしいなあ、何年ぶりだろう!子供の頃よくここで遊んだんだ。         確かあの砂場でトンネル掘ったりしたんだよなぁ。 ■ブランコが揺れる ナオキ:    ……ブランコだ。風にゆれている、白い、ブランコ。         しばらく見ない間に随分錆びて、もう白じゃない。それに……こんなに小さかったかなあ……ふふふ……(少し笑う)         あれ、なんだろう……なんとなく、何か……(心になにかひっかかる) リエ:     忘れちゃったの? ナオキ:    ……!なんだ女の子か……きみ、誰? リエ:     忘れちゃったの?(泣きそうに) ナオキ:     忘れちゃったって…迷子かな。もう日が沈むよ。帰ったほうがいい。おうちわかる?送っていこうか? リエ:     忘れちゃったの、ナオキくん。リエのこと。 ナオキ:    なんで、僕の名前。 リエ:      リエずっとひとりぼっちで寂しかったよ。         ナオキくん、遊ぼう。 ナオキ:    え、でも リエ:     お願い。ブランコに乗りたいの。 ナオキ:    ……分かった。 ナオキ語り: それから僕とリエちゃんは、ただブランコに乗っていた。         夕暮れの空にリエちゃんの明るい笑い声が響いているだけで         不思議と他の音は何も聞こえなかった。         潮の満ち引きのようにいったりきたり。ひたすらに交差するブランコ…… リエ:     ありがとうナオキくん。 ナオキ:    えっ…… リエ:     また、遊ぼうね。 ナオキ語り: うん、と僕がうなずくと、リエちゃんは消えてしまった!僕の目の前で!         ……その瞬間に思い出したんだ。         15年前、泣きながら帰る途中の公園で、友達になった女の子がリエちゃん、といったこと。         遊ぶ約束を僕が忘れてしまっていたのに、それでもリエちゃんはブランコに乗って僕を待っていたらしいこと。         そして…その次の日にリエちゃんは交通事故で亡くなってしまったこと……。          リエちゃんは、僕との約束を守るために、公園で待っていてくれたのだろうか……。         ひとりぼっちの僕を、一番星だけがそっと見ていた。