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朗読台本素材「Letters.」

CAST
弥生(やよい) :30代後半の女性、葉月と離れて暮らす親子のようにも、歳の離れた友達にも見えるが?
葉月(はづき) :12歳の少女。
シキ:年齢・性別共に不明。葉月は12歳の男の子と捉えているようだ。
睦子(むつこ):30代後半の女性、弥生の同級生。

台本ルール→■ト書き  ▼モノローグ ●可能であればSE.ME

1通目
■物語の視点は弥生。葉月の手紙を25年ぶりに見つけて、読んでいます。なので弥生は30代、手紙のなかの葉月は子どもです。  聞き手は歳の離れた相手同士で手紙を送り合っているように感じると思います。  実際には手紙のやり取りをしていたのは12歳同士なのですが、手紙を送り合うことが根底にある芝居という雰囲気を出すために このシーンはあえてそれぞれの立場で手紙をそれぞれ読むというスタイルを採用しました。
 
●セミの声が聞こえる
▼葉月:弥生さまへ。ひさしぶりのお手紙を書いています。元気ですか?
      この夏休みわたしは本を5冊読みました。
       竜と魔法の物語で、全部で10冊あるので夏休みの間に全部読みたいと思っています。
      それと、弥生ちゃんに言いたいことがあります。
       夏休みに入ってから新しい友達ができました。まだ一度しか会っていないんですがとても仲良くなれそう。
       短いけど、今日はこのへんで。またお手紙書きますね。葉月。
▼弥生:葉月様。お手紙ありがとう。楽しく読みました。
     竜と魔法の物語、気になります。きっと気に入っているのでしょうね。
     わたしも図書館で探して読んでみようかな。
     新しいお友達は女の子?男の子?歳は同じなのでしょうか。
     次のお手紙を楽しみにしています。8月10日、弥生より。

2通目 
■弥生の演技は手紙への相槌なので葉月・シキには聞こえていません。  25年前のふたりの世界を、弥生が外側から物語を見る視点のように見ているイメージです。

▼葉月: 拝啓、弥生さま。拝啓ってちょっと照れちゃうね。本で読んだのでさっそく使ってみました。
弥生:   拝啓?なんだかおとなっぽい言い回しね。
▼葉月: 今日は弥生ちゃんが気にしていたので新しい友達のことを書きます。
弥生:   うんうん、気になっていたのよ、このこと。
▼葉月 : わたしはこの夏、竜と魔法の物語を読むぞ!という目標をたてて図書館に通いはじめました。
        図書館は学校の図書室と違って大人も子どもも、おじいさんも、色々な人がいます。
             本も古いものから新しいものまでいろいろあって探すのが大変なんです。
弥生:   わかるわかる。わたしもはじめて図書館に行ったときはそうだったなあ。
▼葉月: その図書館で新しい友達に出会いました。
      一生懸命本を探していて、もう閉館ですよって言われて図書館から出なくてはいけなくなった時。
      図書館の庭ではじめてその子と話をしました。
シキ:  どんな本を借りたの?
葉月:  え?
シキ:  沢山本を持っている。うらやましいなあって思って。
葉月:  竜と魔法の物語の本なの。夏休みの間に読みたくて。あなたは本を借りてないの?
シキ:  うん、借りてない。
葉月:  借りたらいいのに。沢山いろんな本があって楽しいよ。小学生は5冊まで借りられるから。
シキ:  そっか…でもダメなんだ。
▼葉月: その子はとっても寂しそうでした。わたしは放っておけないような気持ちになりました。
弥生:  どうしてダメなのかしら…?
葉月:  どうしてダメなの?
シキ:  どうしても。きっと貸してくれないからね。
葉月:  そうなのね…誰にでも貸してくれるわけじゃないんだ。
▼葉月: その子はわたしと同じくらいの歳に見えました。でも学校の同級生ではないみたいです。
弥生:  ふうん…  
葉月:  何年生?
シキ:  きみは?
葉月:  6年生。
シキ:  同じ。
葉月:  同じなんだ!学校は桜小学校じゃないの?
シキ:  違う。
葉月:  そっかあ。桜小なら図書室の本の話も出来たのに。残念。
シキ:  ねえ、その本をちょっと見せてよ。
葉月:  うん!
▼葉月: わたしたちはそれから日が暮れるまで図書館の庭のベンチで本を読みました。
      同じ本を読んで感想を言いあう。
      いままであまり本を読まなかったわたしにとって、それはとても新鮮で素晴らしいことでした。
      弥生ちゃんとも今度そうしたいな。
      長くなったのでまたお手紙しますね。葉月より。

三通目
■睦子の登場により、弥生と葉月の関係性が明らかになります。睦子・弥生は近しい友人で、現在同士のやりとりです。
弥生・睦子・葉月は実年齢は同じ歳ですが、葉月は過去にしか登場しないので子どもです。

▼睦子: 拝啓、弥生さま。
      お久しぶりです。先日はおみやげありがとうございました。早速家族で美味しくいただいちゃいました。
      さて、弥生からのお手紙を読んでわたしはとても懐かしい気持ちになりました。
       小学生の頃文通ってすごく流行っていましたね!
      わたしも雑誌の「文通相手募集コーナー」で気が合いそうな人を見つけて、手紙を送って、文通していました。
      いつからか、どちらからともなく途絶えてしまったけれど…
      弥生は文通相手募集コーナーにハガキが採用された方だったからきっとたくさんの文通相手がいたんでしょうね。
      わたしは自分の文通相手とどんなやり取りをしたのか…そもそも、手紙を送っていた相手がどんな人だったのか。
      それすらも思い出すことが出来ません。薄情な話です。
      でもそれも仕方ないかもしれません。25年も前のことなんですから。
      わたしと弥生のように実際に同じ学校で同じクラスで、まさに同窓と呼べる立場と。手紙のやりとりだけの関係。
      どちらが印象に残るかは歴然ですよね。
      近いうちに美味しいフレンチのお店を見つけたので行きましょう。ちょっと高いのですがもちろん旦那には内緒で。
      ではでは  睦子より
▼弥生: 睦子様。お手紙ありがとう。
      突然文通なんてワードを出したからびっくりされたことでしょう。
      実は、実家が引っ越しをすることになり、自分の子どもの頃の物を整理することになりました。
      そうしたら出るわ出るわ手紙の束。もう紙の色も変わっていて、まとめてある輪ゴムも、切れてかさかさになっていましたが……  
      どうやらほとんどの手紙をわたしはとってあったようです。
      どうして小中学生の女子は手紙がこんなにも好きなんでしょう。こんなこと次の日学校で会えるんだから
      学校で話せばいいのに、ということが果てしなく書いてありました。
      そして、懐かしく手紙を眺めているうちに文通のことを思いだしたのです。
      わたしも睦月と同じようにすべてを記憶の片隅に追いやってしまっていました。が、どうにも気になることが出てきました。
睦子:  気になることって?
▼弥生: わたしは「葉月」という女の子とずっと手紙のやり取りをしていました。
      小学5年の冬に雑誌の文通募集コーナーで知り合った女の子なのだと思います。ちょっと自信がないのですが。
      葉月との文通は6年生の夏で途絶えています。
      小学生だったわたしは手紙が来なくなったことを全く気にしていなかったのですが…
睦子:  そうね、わたしもそうだった。
▼弥生: ちゃんと手紙を読んでみると、彼女は消えてしまったのではないかと思っています。

4通目
■また弥生は葉月からの過去の手紙を見ています。
▼葉月: 今日もシキに会うことができました。あ、シキって図書館で会った子のことです。
葉月:   シキ!今日はまた違う本を借りてきたよ。また庭のベンチで読もう。
シキ:  うん。
葉月:  もうすぐ夏休みも終わり。わたし、シキに会えるから図書館にすっごい通っちゃった。
シキ:  そうだね。この夏は葉月と一緒に過ごすことが多かったな。
葉月:  目標だった竜と魔法の物語のシリーズも無事読み終わったし、他の本もたくさん読んだなあ。
シキ:  あの物語は10話で終わっているけれど、数年後に作者がまた別の人物を主人公にして同じ世界を舞台に物語を書いてるんだ。
葉月:  そうなの?
シキ:  そっちも読んでみると作者の世界の作り方が伝わってきて楽しいよ。
葉月:  うん、読んでみる!
▼葉月: シキはほんとうにいろいろなことを知っています。同じ歳だと聞いていたけれど……
      ものすごく年上にも見えるときがあったり
シキ:  葉月は素直だから話してると楽しいな!
▼葉月: はしゃいでいるときは年下に見えることもあります。そんなシキと一緒に過ごすのがとても楽しい夏休みでした。
弥生:  そうだったみたいだね。
葉月:  わたしもすっごく楽しい。これからもずっと一緒に本を読んだり、話したりしたいな。
シキ:  でもね葉月。夏休みはもう終わり。
葉月:  うん。新学期になったら、土曜日や日曜にこの図書館の庭で会おうよ。
シキ:  それは出来ないよ。
葉月:  どうして?
シキ:  何と言ったらいいかな…多分きみは学校が始まったら授業や放課後の遊びや、学校の図書室での読書や……
      そういう楽しい時間に沢山時間を使うから…ぼくのことは忘れてしまうと思う。
葉月:  そんなことないよ!
シキ:  ううん(力なく)
▼葉月: ほんとうにシキは寂しそうで。わたしは否定できなくなりました。
      弥生ちゃん、わたしは本当にシキを大事に思っていたのです。
      でもその気持ちはうまく伝わりません。どんなふうに言ってあげたらシキにわたしの気持ちは分かってもらえたのでしょう。
弥生:  葉月…。
葉月:  わたし…わたし…
シキ:  葉月と永遠の夏休みを過ごすことができたらどんなに良かったか。でもそれは出来ないんだって知ってる。
葉月:  そんなことないよ…シキとわたしはずっと友達だよ?!
シキ:  それも出来ないって知ってるんだ。
葉月:  シキ…
シキ:  ぼくはきっと、君がそう言ってくれるのを願ってた。でも無理なんだ。ぼくは図書館にも学校にも入れない。
▼葉月: シキはなぜどこにも行けないのでしょうか。寂しそうなシキにはわたしは何も聞けませんでした。
       でも夏休みが終わってもわたしはシキと友達でいたい。
      それを次に会ったときにはきちんと伝えて……シキの望みをひとつでも叶えてあげられたらいいなと思っています。葉月より。

5通目
■現在です。葉月からの最後の手紙を読んでいる流れで睦子に手紙を書いています。  葉月からの手紙が届かなくなったことで、葉月がどうなったのかは(シキと一緒に消えてしまったのか、それともシキとお別れしたのか、  葉月がただ単に手紙を書くのをやめただけなのか)分からなくなったので明記していません。  
シキがどんな存在だったのか(創作の人物なのか、本の精霊のような不思議な存在なのか、ただ他の学校の子なのか) も明らかにしないことで聞き手にお任せしたい部分です。弥生としてはシキが不思議な存在で葉月と消えたと思っている部分があるのですが それは葉月との親交が途絶えて確かめようもなく、決めることが出来ないという思いです。

▼弥生: 睦子さま。
      続けてお手紙します。自分の思いをただ綴る手紙になってしまい申し訳なく思っています。
      前回の手紙で書いた葉月のことです。
      多分彼女は幼い恋に似たものをシキに持っていたのだと思います。
睦子:  たぶんそうなんだろうね。
▼弥生: その後葉月からの手紙は途絶えました。
       わたしも時間が経って葉月のことを忘れました。
      いまとなっては葉月が何を思っていたのか、そもそもシキという存在は実在していたのか。
      葉月の創作の人物だったのか、それとも本の精霊か何かなのか。
      ほんとうにひと夏だけ仲良くなった友達だったのか。
      すべてはあの遠い夏の向こう側にあって確かめようもありません。
      葉月は、もう2度と手紙を送ってくれることはありませんでした。
      葉月という人物が存在して、12歳の夏を過ごしていたことも……もう褐色に色の変わった手紙の上にしか存在していないのです。
      でもね、睦子。
睦子:   なあに。
▼弥生: 私はとても不思議なのです。
      会ったことも見たこともない、文字だけのやりとりをしていた相手に
      わたしも、葉月も、心の底の大切なものをすべて打ち明けていた。
睦子:  そうだね。わたしもそうだった。手紙、ってそういうものじゃない?
▼弥生: わたしもきっとこの話を、睦子に面と向かって打ち明けることは出来なかったんだと思います。
      手紙だからこそ、伝えられた。
睦子:  きっと葉月ちゃんもそうだったんだよ。
▼弥生: 文字の上でしか伝えられない思いもある。そんな思いを伝えるために、人は手紙を書き続けるのをやめないのかなと思います。  
       時を超えて葉月の言葉は此処に残っています。
      同じようにわたしがいなくなっても、言葉は残ります。
      それがいつか生きた証と呼べるのかもしれない。
      わたしはそれを信じます。
      弥生より。

4人用/20分程度
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朗読劇向けに書いたものです。
台本ではなく手紙を手に持って朗読していくスタイルをイメージしています。  〇通目で新しい手紙に持ち替えます。(返信された手紙のときでも持ち替えの手間と話の流れを考えて同じ手紙扱いにしています)  間に相槌も入りますが、手紙の書き手と意思疎通をしているのではなく、あくまで手紙は手紙としてすでに書かれたものに対しつっこみを入 れている、という考え方となります。